抜毛症の原因は何がある?
抜毛症は、自分の体毛(頭髪、眉毛、まつ毛、ひげなど)を自らくり返し抜いてしまう精神疾患です。人口の1%前後でみられる病気で、以前は小児や女性に多いとされていましたが、最近では成人男性の患者さんも増えているようです。抜毛症の発症について理由はまだはっきりとはしていませんが、以下のような原因があると考えられています。
精神的なストレスや欲求不満
主な原因はストレスや欲求不満によるものとされています。しかし一方で、退屈なときや寂しさを紛らわしたいときに無意識に抜毛行為を行ってしまう患者さんもいます。
《抜毛症の原因で多い事例》
- 転校や転勤などの環境の変化によるストレス
- いじめや厳しすぎる親のしつけなどの人間関係によるストレス
- 受験勉強や就職活動などでの不安
- ホルモンバランスの乱れ(月経・閉経期)
遺伝
最近の研究で、Hoxb8、Sapap3、Slitrk5遺伝子欠損マウスは、毛がはげるまでくり返し掻く行為(groomingといいます)を行うことが分かっています。この行為が抜毛症患者さんの行動に大変似ていることから、これらの遺伝子が抜毛症に関与している可能性が指摘されています。
抜毛癖の合併症状・類似症状
抜毛症の合併症抜毛症の患者さんの中には、抜いた髪の毛を食べてしまう方がいます。しかし髪の毛は飲み込んでも胃の中で消化されないため、胃液や食物などと混ざり合って、石のように硬い固形物になります。これを『毛髪胃石』と言います。毛髪胃石はむかつきや嘔吐、便秘などを引き起こし、ひどい場合は腸閉塞になって手術をしなければ死に至ることもあります。
抜毛症の類似症状
抜毛症と類似する症状として、皮膚むしり症があります。皮膚むしり症は強迫症の一種で、自分の皮膚をむしったり、ひっかいたりします。過度になると、皮膚むしりにより瘢痕化(瘍が完治せずに、凸凹や色素沈着などを伴う痕となって残ること)、感染症、過度の出血、さらには傷口から菌が入ることで重篤な血流感染症(敗血症)が起きることもあります。
抜毛症への対処法
小児の場合
子供が抜毛症の場合は、親がしっかりと話を聞いてあげることが対処法になります。学校や塾で悩みを抱えていないか、家に一人でいる時間が長くて寂しい思いをしていないかなど気持ちに寄り添ってあげることで子供は安心します。ストレスや不安から解放されると自然に治癒していく場合も多いようです。その他には、男児の場合は短髪にする、女児の場合は髪を三つ編みなどでまとめてしまうなど、抜きにくい髪形に変えてしまうことも有効です。
成人の場合
発症の年齢が高いほど治療が長引くことが多いため、早めの受診が推奨されます。皮膚科よりも心療内科で治療する場合が多いようです。抵抗がある場合はインターネットや電話での無料カウンセリングから始めても良いでしょう。自分がなぜ抜毛行為をしてしまうのか、自分の気持ちに向き合うことで解決に向かうことも多いです。また小児の場合と同様、抜きにくい髪形にしたり、ウィッグや帽子を被ったりすることも有効な対策の一つになります。
抜毛症の具体的な治療法
具体的な治療法は、認知行動療法(精神療法)と薬物療法です。
認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy)
自分では気づきにくい考え方のクセに気付かせ、問題となる行動(今回の場合は髪を抜いてしまうという行動)を改善する治療方法です。周囲の人は否定的な態度はとらずに応援してあげましょう。具体的には以下のように治療を進めます。①気づきの訓練(AwarenessTraining)髪を抜き始めた時に、自分の今の心理状態を毎回記録することで、無意識に行っていた抜毛行動を意識化します。文字にして記録することで、日常生活で症状が起きやすい状況、時間帯、その時の感情について、患者さん自身が認識し対処できるようになります。②対抗反応訓練(Competing Response Training)髪の毛を抜いてしまいそうになった時に、それに逆らった行動がとれるように訓練します。例えば、掌をぎゅっと握ったり、脇をしめて腕を動かないようにするなどの他の行動をとることで、髪の毛を抜きたいという欲求を抑えることができます。
薬物療法
①:N-アセチルシステイン
気分を左右する神経伝達物質(グルタミン酸)の量を調整する働きがあります。サプリメントとして気軽に摂取することができます。
②:SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)
脳内のセロトニンを増やすことで、患者さんの不安や落ち込んだ気分を緩和し、抜毛症の原因となるストレスを改善します。副作用は比較的少ないですが、吐き気や下痢、睡眠障害などが起こる場合があります。また、飲み忘れや自己判断で急に中止すると、離脱症状(めまい、発汗、吐き気、痙攣など)が出ることがあります。
③:クロミプラミン三環系抗うつ薬に分類される薬です。脳内のセロトニンとノルアドレナリンを増やすことで、意欲の低下や不安、不眠などの症状を緩和しストレスを改善します。三環系抗うつ薬は一般に、効果は強いですが副作用も出やすい傾向にあります。主な副作用としては、強い眠気、口の渇き、便秘、めまいやふらつき、吐き気、動悸などがあります。
参考文献
1)Gregory JEverettet al.Advances in The Treatment of Trichotillomania (Hair PullingDisorder),Dermatol Ther. 2020 Jun12,e13818