てんかんで入院する目的
てんかんで入院する目的てんかん治療の基本は、てんかん発作の種類をきちんと特定し、その発作にあった抗てんかん薬を服用することです。 しかし通院での薬物治療でなかなか良くならない場合や、通院時の短時間の検査ではてんかんの種類の特定が困難な場合は、さらに詳しい検査が必要になるため、患者さんに入院をしてもらいます。 また、てんかん診療ガイドライン2018によると、『適切に選択された2種類以上の抗てんかん薬で単独あるいは併用療法が行われても、発作が1年以上抑制されない場合は手術を検討する』と書かれており、手術を考慮して入院することもあります。
具体的な入院中の検査
①長時間ビデオ脳波モニタリング
脳波とは、脳の神経細胞が出す電流のことです。発作が起こった時、脳内では大きな電流が流れるため特徴的な波形が見られます。長時間ビデオ脳波モニタリングは、この脳波を記録しながらビデオ撮影し、患者さんの発作時の状況を観察することで、てんかん発作の種類や、発作が脳のどの部位から生じているかを判断します。検査の期間は、1日~1週間ほど行われます。
②MRIまたはCT
脳内を画像化し、脳の異常な部位を調べます。
③PET
脳の活動に必要なブドウ糖の代謝をみる検査です。発作が起こる部位では、通常ブドウ糖の代謝が低下しており、発作時だけ上昇します。てんかん手術の際や、より詳しく検査したいときにMRIと合わせて用いられます。
④SPECT
脳の血流を調べる検査です。発作が起こる部位では、通常血流が下がっていますが、発作時だけ血流が上がります。この変化を観察することで、脳のどの部分で発作がおこり、脳のどの範囲まで広がるかを特定することができます。MRI、PETに加えて用いられる場合があります。
⑤脳磁図(MEG)
脳の活動で生じる微弱な磁力を測定し、異常な磁気の位置や大きさをとらえることで、てんかん発作が起こる部位を特定する検査です。
⑥神経心理学的検査
患者さんの記憶力や知能を検査します。1つの検査には数時間かかる場合もあり、入院中に数日に分けて検査することもあります。ビデオ脳波を行なっている場合は臨床心理士が病室を伺い、検査します。
具体的な入院中の治療
①手術
1年以上薬物治療しても発作が改善されない場合は、手術を検討する場合があります。しかし、てんかんの種類によって手術可能かが決まります。 手術可能なてんかんは下記の通りです。
- 内側側頭葉てんかん
- 部分てんかん
これらのうち、脳の切除可能な部分に損傷や異常が認められるもの・部分てんかんのうち、脳に損傷や異常は認められないが、 脳波などの検査でてんかん原性領域がある程度わかるものは下記の通りです。
- 片側半球の広範な病変による部分てんかん
- 脱力発作を持つ難治てんかん手術方法
これらに対しての手術を今から紹介していきます。
焦点切除術
てんかん発作時に脳内で過剰な興奮が起こる部分を『焦点』といいます。この焦点を切って取り除く手術です。
遮断手術
焦点が脳の運動や言語に関わる部分にあると、切除した場合必ず麻痺や言語障害が出てしまいます。また発作が起こる部分が広範囲だと切除できないこともあります。そのような場合に、焦点を切除せずにてんかん発作が伝わる経路を断つことによって興奮が伝わらないようにする手術です。
迷走神経刺激療法(VNS療法)
迷走神経に電極を埋め込み、一定間隔で電気刺激することで発作を軽減させる治療法です。手術の入院期間は数日~1週間で、電気刺激は退院後に外来通院時から開始します。抗てんかん薬の効果が低いてんかんに対して、抗てんかん薬と併用することで発作頻度を低下させる効果が期待できます。
②食事療法~ケトン食療法~
脳は普段、ブドウ糖をエネルギーにして働いています。しかし、このブドウ糖が体内で不足してしまうと、それを補うために脂肪を燃焼してケトン体を作り、代わりのエネルギー源にします。 ケトン食とは、炭水化物(糖質)を減らして脂肪を増やし、体内でケトン体を作りやすくする食事のことです。主に小児のウエスト症候群、ミオクロニー脱力てんかんなどの患者さんに効果があると言われています。 しかし、低血糖・吐き気・便秘や下痢・発達障害などの副作用もあるため、ケトン食療法は入院中、医師や栄養士の管理のもと行う必要があります。
てんかん入院の費用と入院期間
入院期間は、検査・手術の種類によって様々で、数日~数か月に及ぶこともあります。入院費用も、治療内容によって異なり、入院する病院や個室に入るかなどによっても大きく変わってきます。一例として千葉大学病院の例をあげると『術前検査、頭蓋内電極留置術と焦点切除術を含めて、入院費・手術料の総額はおよそ200万円位』とのことです。日本は保険制度が充実しているため、治療費が高すぎると不安になる患者さんも以下の制度などにより自己負担額を抑えることができます。
てんかん患者さんが利用できる制度
- 自立支援医療制度(精神通院医療)
- 高額療養費制度
- 重度心身障害者医療費助成制度
- 健康保険の傷病手当金
- 小児慢性特定疾患治療研究事業
など、例えば高額療養費制度の利用により、年収にもよりますが多くの方は月に10万円以下に治療費が抑えられます。また、小児の場合、小児慢性特定疾患の補助制度で、入院中の医療費が全額公費で援助されます。医療費についての不安は病院のソーシャルワーカーに相談しましょう。
無事に退院できた後の流れ
手術をした場合は、退院後も定期的に知能検査や記憶力検査をして、手術の影響を手術前と比較して確認します。また、手術は発作をなくすことが目的ですが、基本的には手術後の数年間は抗てんかん薬を飲み続ける必要があります。その間に発作が認められなければ徐々に薬を減らしていき、完全に薬をやめられる場合もあります。
参考文献
病気が見える vol.7 脳・神経(株式会社メディックメディア発行)