医学雑誌「Pain Physician」に2022年に発表された単施設の前向き臨床試験になります。
慢性疼痛にオピオイドを使用している患者さんに対して、大麻治療を併用するとどうなるか、その効果を研究した論文です。
紹介していきましょう。
【背景】
・医療大麻が慢性疼痛患者さんのオピオイドの使用量を減らす可能性があることは今までの研究
で報告されている。
・オピオイドを減らすころは病気の罹患率や死亡率も減少することが実証されている。
・オピオイドの離脱プログラムを含む治療計画に医療用大麻を導入することの有効性を示した研究はないので調べよう。
オピオイドには強烈な鎮痛効果と鎮静効果を認めますが、体や脳の感覚や動きを鈍くさせるように働くために、生活の質が一気に下がってしまう可能性があります。
日本ではオピオイドの使用に関して、最終手段として処方されるケースが非常に多く、処方のタイミングや患者さんのオピオイド使用に関する受容などもあり、オピオイドの依存や使用量の増加など問題になることは多くありません。
諸外国ではオピオイドの使用量が問題となっており、なんとか減らす手段はないかということで医療用大麻が注目をあびています。
【方法】
・カナダのピッツバーグにあるAllegheny Health Network Institute for Pain Medicineで行われた研究。
・カナダのペンシルバニア州では2016年より医療用大麻が合法化となっており、2018年から医療用薬局で医療用大麻が購入可能になっている。
・対象の患者さんは105人
重度の慢性疼痛、難治性疼痛があること
治療が無効であった非腫瘍性の慢性疼痛の既往歴があること
6ヶ月以上オピオイド治療を受けていること
オピオイドの離脱プログラムに同意すること
・3ヶ月ないし6ヶ月の治療観察期間で、医療用大麻の投与は吸入は避けること、1ヶ月ごとのフォローアップ、長期作用型オピオイドから離脱をはじめ、数週間かけて状況に合わせて減量していく
・医療大麻の摂取方法は、患者さんに合わせて提示し、吸入はできるだけ避けること、低THC量から開始して徐々に増やしていくこと、サティバ種よりもインディカ種を選択することなど事前に十分なカウンセリングを行ったうえで、治療を開始した。
・3ヶ月ないし、6ヶ月間、医療大麻を摂取し、1ヶ月に1度定期的にフォローアップを行いなが経過観察を行い、強制的にオピオイド離脱のプロトコールに参加した。
非腫瘍性の慢性疼痛(癌によるものではない)に対して、6ヶ月以上オピオイド治療を受けている患者さん75人に対して、医療用大麻を投与したとのことです。
癌性疼痛ではないこと、患者さんがオピオイドからの離脱を望んで医療用大麻治療を受けていることが特徴です。
【結果】
・75人に対して医療用大麻が投与された。
・副作用を認めた患者さんは2人で、1人は喘息と興奮、1人は幻覚と悪夢であった。喘息の既往があった患者さんが吸入で医療用大麻を摂取していたため喘息発作がでた。
・75人のオピオイド使用量はモルヒネに換算すると49.9mgであった。
・治療開始後、1回目のフォローアップでオピオイド使用量がモルヒネ換算で16.4mgと67.1%減少し、2回目のフォローアップでオピオイド使用量がモルヒネ換算で13.3mgと73.3%減少を認めた。
患者さん75人の基本データと痛みの訴えです。様々な痛みを訴えているのが特徴です。
論文では医療用大麻の投与経路、投与量などが患者さん個人個人で違うため、具体的な情報はありませんでした。
【考察】
データだけをみると、医療大麻の使用で痛みのコントロールもできて、オピオイドの使用量も大幅に減量できて、しかも副作用なく安全に経過したという報告になります。
どうしてこれだけの効果があったのかというと、慢性疼痛に対して効果があった患者さんに対してのみオピオイド離脱のプロトコールに参加し、医師の監督のもと離脱を行なっていったこと、患者さん自身がオピオイド治療の代替療法としての大麻治療を望んで受けていることがあります。
患者さん自身が効果を実感して治療に対して前向きな要素が非常に強いですが、研究データでは代替療法の可能性を示唆しています。
もともとのオピオイド使用量が比較的少ない量だということ、癌性疼痛以外の慢性疼痛や難治性疼痛を認める患者さんも含まれているため、痛みが概ね進行性ではないことも比較的コントロールが容易であったと考えられます。
疼痛における医療大麻の効果は、中オピオイド程度のレベルであると自分は考えています。
痛みのコントロールだけとなると、モルヒネといった強オピオイドの効果には負けますが、なによりもその副作用の少なさと、鎮痛作用以外の効果による生活の質の向上などオピオイドと比較してもメリットは大きいのではないかと思います。
オピオイド導入前に大麻治療を行う順番が自然ではないでしょうか。
痛みで苦しむ患者さんの1つの選択肢となればと思っています。