今回は2010年に医学雑誌「JPSM」で発表された論文になります。
精神作用を認めるTHCを含む大麻関連医薬品「Sativex」が、すでにオピオイド治療を行なっている進行癌の患者さんの痛みを抑える効果があるかどうかを調べた大規模な二重盲検化無作為試験であり、世界中の患者さんを対象にした第2相試験です。
それでは紹介していきましょう。
【背景】
・進行癌の患者さんの約80%はなんらかの痛みを訴えており、癌による痛み、癌性疼痛のコントロールは日々のQOLに関わる。
・中等度以上の痛みに対してはオピオイドによる治療が中心ではあるが、用量を調整しても十分な効果が得られない、許容できない副作用を認めたりなど、痛みのコントロールに難渋する。
・癌性疼痛に対してカンナビノイドは効果があることはすでにわかっている。
・THC:CBDを1:1で含んだ医薬品(Sativex)は、癌性疼痛や多発性硬化症に対して保険適応となっている国もある。
・少なくとも中等度の重度のがん関連疼痛を有する患者の管理において、THC:CBDを1:1で含んだ製剤、THCのみの製剤の鎮痛効果をプラセボと比較して評価した。
WHOによるラダーがあり、それに従い疼痛コントロールを行う約束になっています。
日本での癌生疼痛に対する強オピオイドの位置付けは最後の手段ですね。
オピオイドの処方をするということは制吐剤、下剤を内服しなければいけませんので一気に3剤薬が増えてしまいます。
オピオイドを処方するとなった時には、あらためてインフォームドコンセントをしますし、患者さんに「いよいよなのか」という気持ちにしてしまうタイミングでもあります。
思っているより日本人は麻薬に対して抵抗感があると感じます。
大麻成分は癌性疼痛に対して強オピオイドに代わる、または補うような効果があるのかを調べようと、まずまず強気な研究になります。
【方法】
・2週間の多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照並行群間比較試験。
・中等度から重度の癌性疼痛を有する患者の鎮痛管理における、THC:CBD製剤およびTHC製剤の有効性を評価した。
・患者さんは英国、米国を中心にヨーロッパ諸国から集められた。
強力なオピオイドを少なくとも1週間使用していること
0~10のNRS(Numerical Rating Scale:数値評価尺度)で4点以上の疼痛重症度を記録している
などの条件を認めた患者さん177名に対して、THC:CBDを1:1の製剤を48人、THCのみの製剤を45人、プラセボを51人にランダムに振り分けて2週間投与した。
最終手段である強オピオイド(フェンタニル、モルヒネなど)をすでに使用していけど痛みがまだ持続している患者さんに大麻製剤は効果があるのかTHCとCBDがほぼ1:1で含まれている製剤とTHCのみの製剤、それとプラセボを2週間投与したら痛みの具合はどうなったか、オピオイドの使用は少しは減ったのかなどを中心に調べています。
NSRスコアですが、8点以上はお産の痛さ、金的に近いと言われています。
4点以上はどれくらいでしょうか?
自分は4点というと、足首を捻挫して2,3日目くらいの痛みでしょうか。
日本では、癌性疼痛に対してフェンタニルやモルヒネ、オキシコドンといった強オピオイドの使用はほぼStageⅣ、末期癌の状態の時になります。
強オピオイドが処方されている状態の中で大麻製剤がどれくらいの効果を発揮するのでしょうか。
【結果】
この試験には、平均罹病期間が3年以上であり、オピオイド治療を継続しているにもかかわらず、開始時に中等度から重度の疼痛レベル(NRS疼痛スケールで4以上)を有する進行がん患者さんが参加した。
参加時の患者さんのモルヒネ使用量の平均値は経口モルヒネ製剤で約270mgでした。
使用量は1日THC20mg程度、CBD 20mg程度です。
THC:CBDの製剤を投与した群では、他のすべての治療と併用して試験薬を2週間投与した後、プラセボと比較して痛みの重症度が統計学的に有意に減少し、ベースラインからの平均疼痛NRSスコアが1.37ポイント(22.6%)減少した。
THC:CBDの製剤を摂取した患者さんの43%が、痛みのスコアで30%以上も改善していて、THC群とプラセボ群でこの反応を達成した患者の約2倍であった。
本研究の結果は、THC:CBD抽出物が、オピオイドで十分な鎮痛効果が得られない患者のがん関連疼痛に対する有効な補助的治療法であることを示している。
NRSのスコアが有意差をもって改善を認めているのはたしかですね。
【考察】
経口モルヒネ製剤270mgというと、フェントステープ8mg以上になります。
日本だと非常に高容量になりますし、この量が処方されているということはいよいよ最期を覚悟しなくてはいけないのかと思ってしまうような状態です。
個人的には大麻の鎮痛効果は、コデイン、トラマドールといった弱オピオイドよりも効果があり、強オピオイドほどは効果が弱い、中オピオイド程度と認識しています。
強オピオイドが高容量と摂取している状況の中で、痛みの改善を認めたということは非常に驚きです。
オピオイドの導入前の患者さんで癌性疼痛に苦しむ患者さんに対して投与をするのが順番的にも1番良いと思いますが、大麻の鎮痛効果恐るべしといったところでしょうか。
THCだけでなくCBDも同時に摂取することで多少のアントラージュ効果、CBDによる効果もあり、THC単独よりも効果があることは容易に想像できますね。
発表された時はなかなかの衝撃だったと思われます。
副作用は60%の患者さんに認めているものの、悪心、めまい、傾眠がほとんどであり、軽症から~中等症であり、中止することなく安全に使用することができているのも良いですね。
この結果をもって第3相試験を行うも・・・また次の機会に紹介しましょう。
癌性疼痛の痛みの原因は神経や骨、腫瘍そのもの、炎症、血管など原因は様々であり、その疼痛コントロールには非常に悩まされます。
NSAIDs、アセトアミノフェンからはじまり、弱オピオイド、強オピオイドとより強力な鎮痛作用をもつ薬をつかっていきます。
諸刃の剣でもありますので、オピオイドによる副作用は必発です。
副作用の影響でオピオイドの容量を増やせずに疼痛コントロールに難渋する患者さんや、オピオイドに抵抗がある患者さんにとって1つの選択肢となればと思います。