今回は医学雑誌「Eurpean Heart Journal」に2024年2月に発表された論文を紹介します。
【背景】
・慢性疼痛患者さんにおける医療用大麻の使用において、心血管系の副作用に関するデータはまだ十分ではないが、多くの国で医療用大麻が合法化となり、慢性疼痛に対して使用されている。
・大麻の使用は、心拍数の上昇、低血圧、心臓酸素要求量の増加と関連しており、嗜好目的での大麻使用は、不整脈のリスク上昇と、程度は低いものの急性冠症候群と関連している。
・デンマークの全国登録を用いて、慢性疼痛患者における医療用大麻の使用と新たに発症した不整脈(心房細動・粗動、伝導障害、発作性頻脈、心室性不整脈)との関連を調査した。
【方法】
・All data originate from Danish nationwide health registers、デンマーク国民の健康調査で登録されたデータを用いて評価した。
・2018年からデンマークでは医師が医療用大麻を処方することが可能になった。
2013年~2021年までの間に、慢性疼痛と関連の深い疾患(筋骨格筋系、神経系、腫瘍など)と診断された患者さんから、不整脈の既往歴がなく、2018年以降に慢性疼痛に対して医療用大麻を処方された患者さんと、医療用大麻をつかっておらず他の鎮痛剤などを処方されている患者さんとを比較しています。
慢性疼痛をかかえる患者さんが180万人ほどいて、そのうちの5000人程度の患者さんに医療用大麻が処方されています。
Bigデータですね。
【結果】
・188万人の慢性疼痛患者さんが含まれ、年齢の中央値は55歳で、女性54%であった。
・慢性疼痛の診断は、筋骨格系46%、がん11%、神経系13%、特定不能30%であった。
・研究期間中、5391人の患者さん(年齢の中央値は59、女性は63.2%)が医療用大麻治療(CBD24%、CBD/THC29%、THC47%)を開始した。
・医療用大麻の処方を希望した患者さん5391人、性・年齢構成の等しい対照患者さん26941人とを比較した。
- ・180日以内に不整脈が観察されたのは、それぞれ42人と107人であった。
- ・ 医療用大麻の使用は、非使用[180日絶対リスク:0.4%(95%CI 0.3%~0.5%)]と比較して、新規発症不整脈のリスク上昇{180日絶対リスク:0.8%(95%CI 0.6%~1.1%)}と関連していた:リスク比2.07(95%CI 1.34~2.80)、1年リスク比1.36(95%CI 1.00~1.73)。
- ・ 急性冠症候群については有意な関連は認められなかった[180日リスク比:1.20(95%CI 0.35-2.04)]。
【考察】
喫煙による嗜好用大麻の使用による心血管への副作用は以前にも報告されていますし、 THCおよびCBDは、交感神経系の誘導、副交感神経系の抑制、および心臓伝導系に関与するイオンチャネルとの相互作用を通じて、不整脈に関連しているといわれています。
非ステロイド性抗炎症薬、抗てんかん薬、オピオイドなどの疼痛治療薬も不整脈のリスク上昇に関連していることがわかっています。したがって、医療用大麻による疼痛治療以外の選択肢も同様に不整脈のリスクを上昇させる可能性があり、医療用大麻の使用を検討する際には留意する必要があります。
実際にTHCをメインとした医療用大麻の治療を開始すると、副作用として動悸を訴える患者さんはいます。ほとんどが初期の副作用で一過性ですが、長期的な大麻治療のリスクとして不整脈の出現は考えなければいけません。
マウスの研究ではありますが、心筋にCB1受容体およびCB2受容体が存在しており、交感神経系をまずは活性化させることになるため、他の鎮痛剤と比較すると不整脈のリスクが上昇するのは仕方のないことではあると思います。
急性冠症候群ではリスクにはならず、むしろ医療用大麻の効果を考えると、急性冠症候群のリスクは下がりそうな気はしますが。
大麻治療を受けている患者さんは、定期的に心電図でフォローアップするなど注意が必要ですね。