Categories
Cannabis, Drs’ voice, THC, 慢性疼痛

 

2023年に医学雑誌「Der Schmerz」で発表されたドイツで行われた研究になります。

慢性疼痛に対してオピオイド治療を行なっている患者さんに対して、医療大麻で治療を行うとどうなったかを発表した論文になります。

それでは紹介していきましょう。

 

 

【背景】

・2017年から医療用大麻の処方が可能になったドイツ、ただ高齢者や老人患者の日常臨床における医療用大麻の処方と治療効果に関するデータは非常に限られているのが現状。

・日常生活における痛みや生活の質の低下に対して医療用大麻を使用することに批判的な意見も多い。

・高齢者は鎮痛薬や向精神薬の副作用に苦しんでいるケースが多い。

・疼痛治療の現場における患者さんの特徴と医療用大麻および併用オピオイドの処方(処方期間、投与量)を記録して調査していく。

 

 

【方法】

2020年6月30日までに、医療用大麻治療の定期外来を受診したすべての患者さん178人が対象で、振り返って調査した。

治療日数、それぞれの医療用大麻またはオピオイドの処方量などを記録。

医療用大麻の処方にあたって詳しく説明をした上で、低容量から開始した。

比較対象として、同じ期間にオピオイド治療のみを受けた患者さん156人と比較をした。年齢と性別、オピオイドの使用量にも差はなかった。

治療の目的は、あらかじめ定義された痛みの緩和や食欲の増進だけでなく、ストレス、不安、焦燥感などの精神障害やQOLの顕著な改善も目的としていた。

 

 

【結果】

・患者さんの大麻治療をうける病気、疾患の割合

医療用大麻の処方を受けた178人のうち、男性が63人、女性が115人であった。

65歳未満が63人、65歳以上80歳未満が65人、80歳以上が50人であった。

 

疾患別に分けると

神経系の疾患         79人  44.5%

筋骨格系および結合組織の疾患 73人  41.0%

悪性新生物          18人  10.1%

症状および臨床検査所見の異常.   4人  2.2%

感染症および寄生虫性疾患          2人  1.1%

精神および行動障害                   1人  0.55%

先天奇形、奇形および染色体異常 1人  0.55%

神経系と筋骨格筋系による痛みを訴える患者さんがほとんど占めています。

特定の病気、疾患というよりは、エンドカンナビノイドシステムの機能不全をベースに治療を行っているのが良いですね。

 

・THC消費量の中央値は、5.6mg~11.1mg/日。

65歳未満の男性患者さんの集団では、医療用大麻の投与量が多く、また年齢とともに医療用大麻の投与量が少ない傾向であった。

臨床現場では、より高齢の患者さんの方がTHCの副作用が出やすい傾向にあります。

医療用大麻が低用量で効果があればあるほど安全に使用できますね。

 

・オピオイド消費量の減少

医療用大麻による治療の開始時と終了時の投与量は、中央値でモルヒネ当量65mgと30mgで統計学的に有意差が大きかった。

観察期間中、個々のオピオイド投与量は24mgモルヒネ当量減少し、これは初期オピオイド投与量の50%に相当した。この減少も統計的に非常に有意であった。

オピオイド用量の減少は、医療用大麻の投与量とは無関係であった。低用量(<7.5mg/d THC)と高用量(>7.5mg/d THC)の間に差はなかった。

医療用大麻による疼痛管理を行うようになって、モルヒネの使用量が半分以上減ったことになります。モルヒネは用量依存的に副作用も増えていきますし、高用量であればあるほど生活の質が落ちてしまいます。

 

・治療中止と副作用

143人(80.3%)が観察期間終了まで治療を継続した。治療中止は10人(5.6%)が効果不足、7人(3.9%)が費用不足、5人(2.8%)が副作用として下痢、心臓の症状、消化管の痙攣、筋肉の痙攣を訴えた。

 

まとめると

178人が医療用大麻の治療を受け、平均治療期間は366日で、約30%が80歳以上の患者さんであった。

80%以上の患者さんが、一定量の医療用大麻の投与で継続することができた。

178人の患者さんのうち、66%がオピオイドも同時に使用していたが、処方されたTHCの量に関係なくオピオイドの使用量を50%ほど減らすことができた。

オピオイドのみの患者さんは当然だが、オピオイドの使用量を減らすことはできなかった。

 

 

【考察】

高齢者にも医療用大麻の処方量が一定で、しかも安全に継続することができているのは、医療用大麻の良好な忍容性、オピオイドやCOX阻害剤と比較しても長期使用による安全性が高いといえます。

副作用なく安全に治療を継続できること、厳重にフォローしていけばオピオイドの使用量を減らすことができ、睡眠など生活の質もあげる可能性があることから、痛みに悩む患者さんにとって1つの選択になればと思います。

特にこの論文では低用量での医療用大麻の治療の重要性、可能性が報告されています。

高用量のTHCは精神作用、悪夢を見たり、不安など特にNegativeな感情を増幅させる可能性があるとも言われています。

実際の臨床現場でも同様ですが、個人間によって効果の差があるため、最小の投与量から開始をし、副作用がなく治療効果がある摂取量を見極めるのが非常に重要になります。

癌性疼痛ですでにモルヒネを高用量で使用している患者さんに対しては疼痛コントロールやオピオイドの減量には非常に難渋しますが、オピオイドによる治療が開始されていない癌性疼痛や癌以外の慢性疼痛に対しては非常に有効な治療です。

痛みに悩む患者さんにとって1つの選択肢となればと思います。

Calendar

2024年12月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

カテゴリー